2015年の考察

第1回「課題を克服し、国際都市として進化し続ける、東京」
第2回「オリンピックで生まれ変わる都市、東京」
第3回「“本当の勝負”を乗り越えて——真の国際都市、東京」

2013年10月、国家戦略特区構想がスタート

2013年10月、安倍政権の成長戦略として「国家戦略特区」が指定されました。この国家戦略特区が本格化してきています。これらは、アベノミクスでいわれた「第三の矢」である成長戦略である規制緩和が主体となっています。

この規制緩和での最大のポイントは、「一穴を開ける」ことです。いわゆる「岩盤規制」といわれているものに対して、針の穴でも開けることによって、徐々に規制が緩和されていきます。これまでの規制によって守られていた既得権益のグループとの攻防が、この「一穴を開ける」ことになります。

従って、最初から大胆な規制緩和はできないのが通常です。しかも、2015年度に入ってからは、安保国会となってしまったために、なかなか大胆な改革までいっていないのが実情です。

そのような中でも、特筆すべき動きとしては、医療ツーリズムを見越した、東京の医療面での改革です。医療ツーリズムとは、シンガポールやタイが実施している医療観光で、自国では求めている結果が得られない高度医療技術を受けるために、他国を訪れ医療を受けるために滞在する旅行です。この医療観光に訪れる患者は長くその国に滞在し、彼らの見舞客も訪問するために、ホテルや観光地への恩恵も大きいといわれています。そして何よりも、医療ツーリズムは富裕層が多いために、大きな経済効果が期待できるのです。

今回の規制緩和では、まず、オリンピックを目標として多くの外国人が東京を訪れることから、英語で診療ができる外国人医師を慶応病院、聖路加病院、順天堂病院に配置し、外国人向けの診療を開始することにしました。これも医療という岩盤規制に「一穴を開けた」規制緩和です。次はベッド数の規制緩和へ進むと思われますが、この背後にあるのは、シンガポールやタイが行っている医療ツーリズムを東京でもできるようにしたいという理念です。

日本は世界でもトップクラスの医療レベルですから、外国人富裕層のニーズが十分に見込めます。オリンピックを目標にした、東京の新たな魅力づくりとして、着実に進んでいくことでしょう。

東京都主体で進められている防災対策

2014年12月、2020年までの防災の主な取り組み「東京の防災プラン」が発表されました。この中では、世界一安全・安心な都市東京を目指して、これまでの帰宅困難者の訓練やライフラインの確保に向けた取り組みを進めていくことを、改めて行政側から標榜した内容になっています。

この中でも注目したいのは、20年位前からすでに東京都が発表している「地域危険度マップ」です。いつかは分かりませんが、首都直下地震と東海・東南海地震は必ず来ることでしょう。特に首都直下地震については、文部科学省の公式見解では「南関東でM7.3クラスの地震が発生する確率は30年以内に70%といわれています。

先日の東日本大震災では、東京は最大震度5強の強い揺れを観測しましたが、幸いにも多くの建物が倒壊するようなことはありませんでした。しかし、地盤によっては、建物自体にひびが入るなどの被害がありました。

このようなリスクから逃れるための方策として、東京の街を町丁目単位で、東京23区において「建物倒壊」「火災危険度」「災害時活動困難度」を考慮した総合危険度を5段階で評価してその中で4、5にあたる地域を「危険度の高い地域」として、色・パターン別に地図上に示した「地域危険度マップ」が発表されています。

私も2010年に東京都内で引っ越しをする時に、この「地域危険度マップ」を参考にしました。そろそろ首都直下地震がくるだろうという前提にしたがって、以前住んでいたマンションのエリアを見ると、「建物倒壊」「火災危険度」が高い地域だったのです。そこで2010年10月に引っ越したのですが、その後、2011年3月に東日本大震災がきた後、以前住んでいたマンションを訪問してみると、ひびが入っていました。

全体的な防災対策は、東京都が着々と必要な住環境や老朽化したインフラの整備を進めていくことでしょう。そこで個人的に、ご自身の住まい・地域にはどのようなリスクが潜んでいるのか、「地域危険度マップ」を見て、今一度確認してみることをおすすめします。また、住宅を購入される際には、必ずご自身で確認されるといいでしょう。

ますます進む、職住近接

前回のコラムでは、郊外から都心への職住近接が進んでいることをご説明しましたが、この動きはしばらく止まりません。なぜなら、東京のインフラは、昼間人口を賄うための規模を想定して整備されているからです。

東京には、23区の中心部である千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区のエリアに多くのオフィスが林立しています。ここに周辺の区、市はもちろんのこと、神奈川県や埼玉県、千葉県などから、多くの人が通勤・通学をしています。このために昼夜間人口の差は、数百万人におよびます。

しかし、東京都では、これらの何百万人にも増える昼間人口が快適に過ごすためのインフラを、すでに整備しているのです。

通常は、新しいマンションを建てると、そのマンションに対するインフラやユーティリティを新たに整備して供給する必要があります。しかし東京では、このような住宅用のインフラは、昼間人口を賄うために整備したものが活用できるのです。新たなインフラ整備を急激にしなくても、新たなマンションが供給できる。このような好条件が後押しして、都心の住宅、マンションの供給はこれからも続くことが予想されます。

郊外からの都心回帰は、需要面からも供給面からも、しばらく続くといえるでしょう。さらに、東日本大震災で郊外居住者の多くが帰宅困難者になりました。その経験を経て都心で職住近接の暮らしを選ぶ都民が増えるのではないでしょうか。

東京は、20世紀の様々な課題を克服し成長してきました。そして、2020年のオリンピックを目指して、国際都市としての進化を遂げようとしています。この成長は、今後も脈々と続いていくことでしょう。


市川宏雄(いちかわひろお)

明治大学専門職大学院長
公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授

1947年、東京生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程を経てカナダ政府留学生としてウォータールー大学大学院博士(Ph.D.)。一級建築士。専門は都市政策、都市地域計画、危機管理政策、次世代政策構想。現在、森記念財団都市戦略研究所理事、日本テレワーク学会会長、日本自治体危機管理学会常任理事、日本危機管理士機構理事長など。

主な著書(共著)

『東京五輪で日本はどこまで復活するか』(KADOKAWA/メディアファクトリー)、『リニアが日本を改造する本当の理由』(メディアファクトリー)、『東京の未来戦略―大変貌する世界最大の都市圏』(東洋経済新報社)、『日本の未来をつくる―地方分権のグランドデザイン』(文藝春秋)、『文化としての都市空間』(千倉書房)など多数。

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第1回「課題を克服し、国際都市として進化し続ける、東京」
第2回「オリンピックで生まれ変わる都市、東京」
第3回「“本当の勝負”を乗り越えて——真の国際都市、東京」

2014年の考察

第1回「一体化できる都市、東京」
第2回「オリンピックに向けて変貌する都市、東京」
第3回「みんなが集まり、みんなが主役になれる都市、東京」