2014年の考察

第1回「一体化できる都市、東京」
第2回「オリンピックに向けて変貌する都市、東京」
第3回「みんなが集まり、みんなが主役になれる都市、東京」

2020年の東京オリンピック後、日本経済は疲弊してしまうのではないかということが、ささやかれています。しかし、成熟国家型オリンピックとして開催されたロンドンオリンピックはオリンピック終了後も経済が上昇しています。全てのオリンピック開催都市が、終ったら経済が失速するということではないのです。

オリンピック後のビッグイベント、リニア中央新幹線開業

2020年のオリンピック後、日本経済は疲弊して失速すると懸念されています。しかし、今回の東京オリンピックは、これまでの発展途上国が近代化したその国の威信をかけ、その国の実力以上の整備資金を拠出して行うオリンピックではありません。2012年のロンドンオリンピックと同様に成熟国家型のオリンピックを目指しています。

現に、2012年のロンドンオリンピック後、ロンドン経済は上昇しています。そのようなオリンピック後の経済を牽引するシンボルとして注目したいのが、2027年開業のリニア中央新幹線開業です。

リニア中央新幹線の開業は、日本の国土の形を変えてしまうほどのインパクトを秘めています。それは、東京~名古屋間の移動をわずか40分で可能にしてしまうことです。交通費だけ気にしなければ、東京の八王子市や神奈川県藤沢市、千葉県千葉市といった郊外と名古屋が同じようになってしまうのです。

1964年の東京オリンピックの時に、東海道新幹線が開業し、東京~大阪が3時間10分で結ばれるようになりました。この結果起きたのが、東京への一極集中です。東京から大阪への日帰り出張が可能になって、大阪へ支店をおく必要性が大幅に低下してきたのです。いわゆる、ストロー効果です。

これと同じようなことが、今度は名古屋で、しかも40分という短時間で移動できることで、発生してしまうのでしょうか。実は、今回はこのような現象は起きずに、東京から名古屋までを広域の大都市圏として一体化してしまう可能性を秘めています。なお、リニア中央新幹線の大阪までの延伸は2045年にされることが予定されています。

リニア中央新幹線によってもたらされるのは、東京への一極集中ではありません。むしろ都市間の移動時間が短くなったことで、オフィスや住まいを移す必要がなくなり、東京圏(3560万人)、山梨圏(80万人)、長野圏(210万人)、静岡圏(380万人)、名古屋圏(1130万人)、大阪圏(1980万人)がすべて1つに統合され、人口7000万人以上の大交流リニア都市圏が誕生することになります。

まさに、誰もが集う都市、東京としてのインフラが整ってきます。このような壮大なプロジェクトが、東京オリンピック後も控えており、経済をけん引していく事が期待されます。

郊外の富裕層高齢者の都心回帰

一方、首都圏、東京では、富裕層高齢者の都心回帰がより一層進んでいくことでしょう。既にその動きは出てきていますが、郊外に戸建住宅を購入して子育てを終え、夫婦だけとなった高齢者が、医療や生活の利便性が充実している都心へと移り住む例が増えてきているのです。当分その傾向は続くことが予想されます。

私も以前は鎌倉に住んでいましたが、定年退職したサラリーマンの方が、老後は家で余生を暮らそうと、毎日庭の緑を刈ったりするようにしている姿を拝見してきました。自然と接して過ごすのは素晴らしことです。ただ、それが人によっては必ずしも寿命を伸ばすことにはならないのです。なぜなら、人生の終末期は医療に頼ることが増えたり、バリアフリーの環境の整備しているところが暮らしやすいからです。ですから、高齢者でもより多くの刺激と活動を求める方は、高度な医療が整備されている都心へと戻ってきているのです。

理想的には、都心のマンションに住んで、郊外の自宅は別荘にする。私のいたカナダでは、都心ではアパートやマンションに住んで、郊外に別荘を持つ生活が普通の中流所得層であたりまえに行われています。日本でもマルチ・ハビテーションという住まい方は早くから言われてきています。この傾向は多分変わらないでしょう。なぜなら、東京には立体化、高層化で住宅を供給できる余地は十分にあるのです。

各地で進む大規模都市開発

現在、東京は都市開発ラッシュです。他の国と違い、東京の都市開発は官ではなくて民が主導で行っています。日本橋ではあれば三井、丸の内であれば三菱、森ビルは六本木、赤坂、虎ノ門周辺、渋谷は東急とか、完全に各企業の縄張り的エリアとして分かれているのですが、各々が張り合うわけではなくて、各エリアでそれぞれがいいものをつくろうとして頑張っています。

民間パワーが東京で有効に機能している背景には、都市開発を支える需要があります。しかも、第1回目のコラムでも解説しましたが、都市としての歴史が浅いために、モザイク状に都市が発展することもなく、東京周辺の横浜や川崎、埼玉、千葉の各地域とも特段の地域性がないために、東京圏3500万人が一体化することができ、各都市開発によって、都市圏各地から人や企業が集まり、各々の需要を形成しているのです。

そのような開発は、リニア中央新幹線やJR東日本の新駅や新線の開発や高速道路などの交通インフラが整備されてくることで、さらに市場が拡大していくことが見込まれます。また、羽田空港の国際化が進むことで、海外からの訪日外国人もその市場の一部を形成していくことになるでしょう。

2040年危機を乗り越えるための基盤整備が大切

このように、都市政策としての観点からみれば、東京オリンピック後も経済は落ちことなく成長を続けていくことは、十分に予想できます。

一方、日本経済を徐々に蝕んでいく少子高齢化、人口統計的にみれば、高齢者人口がピークを迎える2035年から2040年頃には、65歳以上の人口割合が36.1%まで上昇し、東京、首都圏への高齢者の移動がピークを迎えるといわれています。

ですから、それまでに日本経済の基盤整備を進めておくこと、さらに首都圏の都市整備を進めていくことは、喫緊の課題でもあります。

その課題解決に、オリンピック開催という国際公約を契機とした首都圏、東京の都市整備は重要であり、その道筋は着実に実行されていかなくてはなりません。それが着実にできた時に、2040年危機を克服し、誰もが集う都市、東京は、さらなる発展が期待できる未来都市になっているでしょう。その起爆剤となるのが、2027年のリニア中央新幹線の開業なのです。

巨大都市がゆえのリスクを避ける方法

2011年3月11日に発生した東日本大震災で、帰宅困難者で溢れかえった東京の姿は、まだ記憶に新しいところです。3500万人という世界最大の都市圏にとっては避けて通れない課題です。日本にいる限り災害とは縁をきれません。では、どうすればいいのでしょうか。

中央防災会議や東京都の被害想定図をみると、じつはこの高密度の都市のどこが安全で、どこが脆弱かが分かります。東京で生活するのであれば、日ごろからこの情報に接している必要があります。

もちろん、政府や自治体は災害に弱い地域を減らすための都市整備や、地震に強い水道管やガス管の交換など、インフラストラクチャの造り変えを着々と行ってきています。一方、住民の側では、エリアや建物などの安全性を考えて行動するだけで、災害リスクから逃れられる可能性が増えます。

すでに、東日本大震災の教訓から、災害時でも電話がつながる方法の研究や、都心の企業では、災害時に帰宅をさせずそのまま会社に留まる計画を作成しています。誰もが集うこの東京では、その人々が巨大都市を運営する主役なのです。


市川宏雄(いちかわひろお)

明治大学専門職大学院長
公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授

1947年、東京生まれ。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程を経てカナダ政府留学生としてウォータールー大学大学院博士(Ph.D.)。一級建築士。専門は都市政策、都市地域計画、危機管理政策、次世代政策構想。現在、森記念財団都市戦略研究所理事、日本テレワーク学会会長、日本自治体危機管理学会常任理事、日本危機管理士機構理事長など。

主な著書(共著)

『東京五輪で日本はどこまで復活するか』(KADOKAWA/メディアファクトリー)、『リニアが日本を改造する本当の理由』(メディアファクトリー)、『東京の未来戦略―大変貌する世界最大の都市圏』(東洋経済新報社)、『日本の未来をつくる―地方分権のグランドデザイン』(文藝春秋)、『文化としての都市空間』(千倉書房)など多数。

記事一覧

2015年の考察

第1回「課題を克服し、国際都市として進化し続ける、東京」
第2回「オリンピックで生まれ変わる都市、東京」
第3回「“本当の勝負”を乗り越えて——真の国際都市、東京」

2014年の考察

第1回「一体化できる都市、東京」
第2回「オリンピックに向けて変貌する都市、東京」
第3回「みんなが集まり、みんなが主役になれる都市、東京」